第13回大佛次郎論壇賞に『ブラック企業~日本を食いつぶす妖怪~』

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12月21日付の朝日新聞が報じるところによると、第13回大佛次郎論壇賞は、今野晴貴(こんのはるき)・NPO法人POSSE(ポッセ)代表(30)の『ブラック企業~日本を食いつぶす妖怪~』(文春新書)に決まった。若い人材を大量に採用して過酷な労働環境でうつ病や退職・過労自死に追い込む一群の企業を問題視し、“日本型雇用の悪質な変容”を明らかにした力作である。

大学院で非正規雇用を研究し、製造業派遣で修士論文を書いていた今野氏は、ある時「正社員といいながら内実が変わってきた日本型雇用の変容に“ピンと来た”」という。派遣・契約・パート・アルバイトといった非正規雇用が増える中で、若者は何とか正社員の座をめざす。日本型雇用は長時間労働と終身雇用が特徴。ブラック企業は異常な長時間労働で「使える者」を選別し、残りはパワーハラスメントなどで人格を破壊して退職に追い込んでいく。自死に追い込まれる例も少なくない。これは、“日本式経営は人を大事にする”という過ぎ去った日々に築かれた“信頼”の「悪用」だと見抜いたという。

本書が単なる告発本にとどまらないところは、ブラック企業を社会全体の問題としてとらえている点だ。「ブラック企業は医療費や社会保障費を増やし、若者の将来を奪って少子化の原因になる。コストを社会に転嫁しているんです」と、今野氏は指摘する。ブラック企業という言葉が流行語になり厚生労働省もそれを「若者の使い捨てが疑われる企業」と定義づけ、離職率の高い企業に対して労働基準監督署が臨時検査も行ったこんにち。だが、日本社会に巣くう深刻な病理を本当に克服するには政治の力だけでは限界がある。

弱い人間への攻撃に歯止めが利かなくなった日本の社会。実は若者のみならず女性や中高年も苦しんでいる。正社員のみならず非正規労働者ももちろん苦しんでいる。二言目には「いやなら辞めろ」という言葉を口にする管理職の姿には、ハンナ・アーレントの『凡庸な悪』を想起させるものがある。恐ろしいのは、ずっと正社員管理職できた人の中には、ほんとうに“攻撃される側の痛み”がわからない“凡庸な悪人”が少なからず存在することだ。1990年代の終わりと2010年代の初頭にブラック企業勤務を経験した筆者には、痛いほどわかる。だが、あきらめることはない。今野氏の社会的正義感にもとづいた挑戦には、次々に援軍が加わってくることが間違いないからだ。もちろん筆者もその一人である。

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