いったい何? NHK経営委員の男女共同参画批判 ~この国は近代欧米的価値観の全否定に向かうのか~

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NHK経営委員で埼玉大名誉教授の長谷川三千子氏(67)は、1月6日付の産経新聞に寄せたコラムで、日本の少子化問題の解決策として、女性が家で子を産み育て男性が妻と子を養うのが合理的であると主張した。1月28日付の朝日新聞が報じるところによると、長谷川氏はコラムの中で1972年施行の男女雇用機会均等法と1999年施行の男女共同参画社会基本法を批判。「妊娠・出産・育児は圧倒的に女性の方に負担がかかるから、生活の糧を稼ぐ仕事は男性主役となるのが合理的である」などの持論を展開した。

長谷川氏は朝日新聞の取材に対して「コラムの狙いは極めて重大な問題に早く手を打たないとならないため」と説明。経済事情から共働きせざるをえない家庭も多いことにつては「若い世代の正規雇用確保が大切な条件。アベノミクスに頑張って欲しい」とだけ述べ、具体的な対策等には一切触れなかった。長谷川氏は保守系政治団体の代表委員も務める日本文化論の研究者で、婚外子の相続差別規定を廃止する最高裁決定を批判し、選択的夫婦別姓制度にも反対している。

また長谷川氏は2013年12月にNHK経営委員に就任しており、同じく経営委員に就任した作家の百田尚樹氏とともに日頃から「安倍晋三首相の歴史観・教育観・道徳観・家族観は自分と全く同じ」といった趣旨の発言をしている。事実上、安倍政権からNHKに経営委員として送り込まれた人物の一人といえる。北欧では役割分業ではなく女性も男性も外で働きながら育児をしやすいよう支援して出生率が回復した。文筆家の北原みのりさんは「女性が働きにくくジェンダーギャップが激しい国ほど少子化になっているのが、21世紀の現実」と指摘。経済的な事情を別にしても、社会に出て仕事をし自己実現することは男性と同じように等しく女性に与えられた当然の権利であるという考え方は、わが国が「価値観を同じくしている」はずの、リベルテ(自由)・エガリテ(慈愛)・フラタニテ(平等)を共通基盤とする近代の欧米的市民社会の大前提である。

父親の育児参加を支援するNPO法人ファザーリング・ジャパンの安藤哲也副代表は長谷川氏の主張について「経済が右肩上がりだった時代の考え方。育児も仕事も分け合う方が若い世代の現状には会うし、合理的」と反論。兵庫教育大の永田夏来助教(家族社会学)は「体を壊すほど働いても月収10万円という若者も多い。若い女性の専業主婦回帰志向は厳しい現実への反動」と見、長谷川氏の主張はそういった声なき声を背に受けてのものと考察している。

ただ、長谷川氏が支持する安倍首相は「女性が輝く日本」を掲げ、女性の積極登用や仕事と子育てが両立する環境づくりを唱えている。首相のそういったキャッチコピーは単なるリップサービスにすぎないのか。また、NHKという公共放送の経営委員としてマスメディアでこうした主張をする長谷川氏の態度が果たして妥当であるのか。この国では近代社会を「いいもの」と考える人たちへの“報復”のうねりがトップダウンで進行しつつある。

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