「貯蓄好き」かは母語が決める?言語と経済観念の驚きの関係

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Flickr_Nick Ares

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ドイツ人は倹約好きだが、アメリカ人は貯蓄を好まないといった風に、国や民族によって経済観念に差異が見られるのはなぜだろうか。まずは歴史、風土、宗教の違いといった要因が考えられようが、これをそれぞれの言語の、文法の違いから説明する理論が登場した。

現在と未来の関係が文法上分かたれると、貯蓄の観念をもたらしにくい?

その理論を公表したのは、エール大学の経済学者Keith Chen氏。「言語はその話者の思考や行為を規定する」という伝統的な言語学上の仮説を経済理論に応用したものだ。中国系アメリカ人の2世であるChen氏は、自身が話す英語と中国語の文法上の違い、「未来形」を用いるかどうかという違いに着目した。

つまり「明日私はニューヨークに行きます」を英語では”Tomorrow I will
go to New York.”と言うが、これを中国語では”Tomorrow I go to New York.”のように表現する。つまり中国語では未来の行為を表すのに、英語のwillのような未来の助動詞を要さないのだ。

このように未来の出来事や行為に未来形を要さず、動詞の現在形をそのまま用いる言語には中国語の他、ドイツ語、スウェーデン語、フィンランド語、オランダ語、エストニア語、ノルウェー語、そして日本語がある。逆に未来形と現在形を文法上峻別するのは英語の他、フランス語、スペイン語、トルコ語等である。

この違いからChen氏は次のような仮説を立てた。英語のように未来形を用いる言語の話者は、未来の出来事を現在からはっきりと分ける。そのため現在から未来へのつながりの観念が弱く、将来のために今貯蓄しようという考えが浮かびにくいのではないか

未来形を持たない言語の国のほうが平均して高い貯蓄率

この仮説は一見、トンデモ学説のようだ。そこでChen氏は裏付けのため、OECD諸国の貯蓄率と使用言語構造の関係を確認した。

 これはOECD諸国のGDPに占める平均貯蓄率を表にしたもの(1985~2010年)。先頭からルクセンブルク、韓国、ノルウェー、スイス、オランダ、日本、フィンランド、オーストラリア、デンマーク、スウェーデン、エストニア、スペイン、ハンガリー、カナダ、ドイツ、イタリア、トルコ、フランス、イギリス、アメリカ、ギリシャで、黄色が主に未来形を持たない言語を話す国、青が未来形を持つ言語を話す国である。

確かに一見して、未来形を持たない言語を話す国のほうが貯蓄率が高いようだ。実際にはそうした国のほうが平均して5%貯蓄率が高いと算出された。

同じ国でも、未来形を持たない言語の話者のほうが遥かに貯蓄好き

さらなる裏付けとしてChen氏は未来形を持たない言語と持つ言語双方が話される国の中での違いを確認した。スイス(ドイツ語とフランス語・イタリア語)、ベルギー(オランダ語とフランス語)、マレーシア(中国語とマライ語)等である。

その結果はさらに明瞭で、それらの国ではドイツ語、オランダ語、中国語のように未来形を持たない言語の話者のほうが、それ以外の言語の話者より30%増しの貯蓄率を示したという。

あくまで平均値による概観であり例外も多く見出せようが、言語構造と経済観念を関係づけたChen氏の大胆な理論は今後の諸学説にとって活性剤となりそうだ。

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