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自己責任論に切り込む青春映画『WALKING MAN』─脚本の梶原阿貴氏「今の世の中に問題提起したかった」

(C)2019 映画「WALKING MAN」製作委員

(C)2019 映画「WALKING MAN」製作委員

ラッパーのANARCHY氏が初監督した映画「WALKING MAN」が、10月11日から全国で公開中だ。

ANARCHY初監督、野村周平主演

神奈川県川崎市の貧しい母子家庭で暮らす吃音症の若者が、とあるラッパーのカセットテープを手に入れたことがきかっけで、マイクバトルに乗り込むというトーリー。

主人公のアトムを演じるのは、プライベートでもANARCHY氏の友人である野村周平氏、「地雷震」「スカイハイ」の漫画家、高橋ツトム氏が企画・プロデュース、女優でもある脚本家の梶原阿貴氏が脚本・監督補を務めた。

今回、映画に込めた思いを脚本の梶原氏にインタビューした。

(C)2019 映画「WALKING MAN」製作委員会

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(C)2019 映画「WALKING MAN」製作委員

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俺らにしかできない映画つくろうぜ!

──個性的なメンバーですが、そもそもどのようにして企画が始まったのですか?

髙橋ツトム氏から「俺の仲間のラッパーが映画を撮りたいと言っている」と呼び出されたのが始まりです。

現場に行くと、全身タトゥーだらけのANARCHY氏が「ラッパーやってるANARCHYといいます。良い映画作りたいです」と握手を求めてきたのですが、正直指にまでぎっちりタトゥーが入っているのでビビりました。

「俺らにしかできない映画つくろうぜ!」ということで意気投合。人気ラッパーが監督するラップ映画というとチャラい印象を与えると思ったので、いい意味で裏切るような作品を作ろうと思っていました。「今の世の中、なんかおかしくない?」と問題提起したかった。

(C)2019 映画「WALKING MAN」製作委員

(C)2019 映画「WALKING MAN」製作委員

──川崎市の工業地帯を舞台にしたのはなぜですか?

ANARCHY氏が京都市の向島(むかいじま)出身なのですが、向島の要素を東京近郊で表現できるのは川崎だったからです。駅近くのにぎわいと、少し離れた工業地帯のギャップが面白い。出演もしているラップグループ「BAD HOP」の地元で彼らはこの場所から上り詰め、昨年武道館ライブも成功させました。

ANARCHY氏は京都市伏見区にある巨大な市営住宅・向島団地の父子家庭出身(詳しくは自伝小説「痛みの作文」)。川崎駅東側の競馬場、競輪場、日雇い労働者向けの安い店が並ぶ下町周辺には、団地の困窮した暮らしと同じく、貧困層の鬱憤を感じさせるものがあるという。

どんな境遇にいても人生が変わるチャンスがある

野村周平

ラッパーのエミネムが主演した自身の半自伝的映画「8mile」のような成功物語ではなく、内気な吃音症の青年がラッパーへの夢を抱くまでのストーリーとなっている。

ANARCHY監督や髙橋ツトム氏と梶原氏が話し合う中で、ラップに出会ってしまった青年の初期衝動に焦点を当てることになったという。

どこで暮らしていても、どんな境遇にいても、なにかと出会ってしまったら、そこから人生が変わるチャンスはあるということを伝えたかった。

人生には選べることと、選べないことがある。自分で選べなかったことに対して自己責任を問われることには納得がいかないので、そこは強調したかった。また、自分で選べることに対しては「覚悟持ってやれよ!」というメッセージを込めました。

社会問題を「自己責任論」で切り捨てるな

(C)2019 映画「WALKING MAN」製作委員会

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描かれているのは生活費や治療費、借金を1人で背負うアトムを「自己責任論」で冷たく突き放す社会だ。今の日本をどのようにとらえたのだろうか。

アトムの両親はいわゆるロストジェネレーションです。就職氷河期で非正規雇用、労災もないし、保険も滞納中。これら全て彼らの責任でしょうか? 個人の生活は必ずその時の社会と連動していると思います。

社会問題を「自己責任」の名の元に切り捨ててしまっては、今は何の苦労もなく暮らしている人の生活も、いずれ何かのきっかけで崩れた時に誰も助けてくれないということになります。

私は、社会に対する怒りをさらに弱い者に向けずに「なめんな!」と上に向けて、強い者に向けて言えるようになりたいと思います。

説教臭くならないバランス

サブ1

アルバイト中ただ時間が過ぎるのを待つ雰囲気や肩をすぼめて歩く様子など、丁寧に描かれたアトムの毎日は共感を得られるシーンだ。

社会派映画にしちゃうと皆見てくれないと考えたので、説教臭くならないバランスで伝えたいことを入れ込んでます。

「ハッスル&フロウ」やケン・ローチの「わたしは、ダニエルブレイク」、日活ロマンポルノの「色情めす市場」を意識しました。実際はもっとあるかもしれません。

どれも社会問題と生活臭がストーリーに厚みをだしている映画だ。初めてクラブに行った時の浮いている感じ、他人のキャップやスニーカーでHIPHOPに染まったばかりのかっこ悪い様子までリアルだ。

ウォークマンを拾うシーンにこだわり

(C)2019 映画「WALKING MAN」製作委員会

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梶原氏は女優でもありながら、今回は監督補としても撮影に参加した。野村周平氏や監督はどうだったのか?

野村さんは勘のいい俳優なので、こちらが特になにも言わなくても「ここだ」と分かっていたように思います。

拾ったウォークマンを聞くシーンは監督のこだわりでひたすら正面から長回しでいく、と決めていました。本編で使われているのは一部で、実際はまるまる1曲分撮影しています。撮影の芦澤さんも特に気合が入ったシーンです。

(C)2019 映画「WALKING MAN」製作委員

(C)2019 映画「WALKING MAN」製作委員

最後に、梶原氏に映画の見どころについて語ってもらった。

ラストにアトムが歌うリリックに「生まれる場所 誰にも選べない」とありますが、本当に人生は不公平なものです。時には「何のために働いてるんだろ?」果てには「なんのために生きてるんだろ?」と思うこともしばしばだと思います。

アトムはたまたまラップに出会って、自分の言葉を手に入れることができましたが、それだってなかなか難しいことです。でも「マイナスの分だけプラスに反転することができる」ということは信じてほしいと思います。それにそう思わなきゃやってられないですもん。

ANARCHYの歌う主題歌「WALKING MAN」に「人生2回もないもんな」とありますが、その一度をどう生きるのか、映画を観てそれを皆さんに感じてほしいと思います。

映画を見終わった後、映画館を出て街を歩きだすと、なぜか足元が軽い。どんな時も上を向いて歩こう、今からどんなことに挑戦してもいいんだと前向きな気持ちになれた。

映画「WALKING MAN」は2019年10月11日から全国で公開中。

台風19号で延期となった舞台挨拶は、10月20日(日)に東京都新宿区の映画館・新宿バルト9で19:00の上映回に行なわれる。

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Text by aya_saya

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