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地震が多いイタリアで、非常用持出袋が普及しない理由

提供:避難所・避難生活学会理事 水谷嘉浩氏

提供:避難所・避難生活学会理事 水谷嘉浩氏

イタリアは日本と同じで、地震の多い国だ。

近年の記録だけを見ても、2009年のラクイラ地震や2016年のイタリア中部地震など、甚大な被害をもたらした地震は多い。特に後者の地震の時には、現地の郷土料理であるアマトリチャーナを通した支援が世界中で広まったため、記憶に残っている人も多いかもしれない。

地震が多いとなると、気になるのは万一の際の支援体制だ。実はイタリアでは日本ほど非常用持出袋が普及しておらず、友人に聞いても自宅に備えている人は聞いたことがない。万一の時、まず必要になる食事はどうしているのだろうか。

災害時に提供されるのは「普段の」食事

イタリア人は地震などの災害時に何を食べているのか。その答えは以下の写真の中にある。

避難所・避難生活学会理事 水谷嘉浩

提供:避難所・避難生活学会理事 水谷嘉浩氏

写真だけでは判別しにくいかもしれないが、これは大型の厨房設備を備えたトラックだ。1時間に1,000食を調理できるキャパシティを持ち、被災した人々に温かい食事を提供することができる。

避難所・避難生活学会理事 水谷嘉浩

提供:避難所・避難生活学会理事 水谷嘉浩氏

こちらは調理中の様子。缶詰やレトルトを使用するのはなく、新鮮な肉や野菜から調理しているのも食にこだわりの強いイタリアらしい。

避難所・避難生活学会理事 水谷嘉浩

提供:避難所・避難生活学会理事 水谷嘉浩氏

イタリアらしく、提供される食事はパスタ。災害時はどうしても簡易的な食事になりがちだが、パスタ一皿だけでなくメイン料理まで付いている。そして写真右奥には食卓に欠かせないワインの姿も……。

イタリアではこの厨房付きトラックに加え、被災者が一時的に生活するテントや簡易トイレが48時間以内に設置されるよう制度化されている。被災地の生活というと体育館で雑魚寝のイメージが強いが、テントならプライバシーも保たれるし、災害で精神的なストレスを抱える人々も少しは落ち着けるかもしれない。

避難所・避難生活学会理事 水谷嘉浩

提供:避難所・避難生活学会理事 水谷嘉浩氏

日常を取り戻すことが被災地の支援につながる

日本の災害時でも作りたての温かい食事が提供されることはあるが、ボランティアによる炊き出しがメインで、行政が配布するのは菓子パンやおにぎりなどが多い。

地震発生からある程度時間が経てば食事内容も少し改善されるが、それでもコンビニ弁当が常である。どうしても「被災地の食事」といった印象がつきまとうし、長期的に見ると栄養バランスの点でも心もとない。

今回ご紹介した写真はすべて、避難所・避難生活学会理事の水谷嘉浩氏に提供いただいたものだ。写真を見ていて思うのは、食事や住居といった物質的な支援が、災害でストレスを抱える人たちの精神的な支援にもつながっているということだ。

食事と住居、そしてトイレが提供されればひとまず生活することはできるが、そのすべてが被災地仕様というのはやはり辛いし、日常に戻るには時間がかかることをいやでも意識させられる。その点、食事だけでも普段と同じものが提供されれば気持ちは落ち着くし、そこから復興への活力が生まれるかもしれない。

日本は地震などの災害が多く、またそのため防災意識も高い。非常用持出袋を常備すことはもはや常識になりつつあるし、学校や公共施設では定期的に防災訓練も行われている。

これらはもちろん素晴らしいことだが、万一の事態が起こった際の支援体制もこれ以上改善できることがないか、考えてみるのもいいかもしれない。イタリアの被災地の様子は、その参考になる事例を多分に含んでいる。

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Text by 鈴木圭

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