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世界最大級の自転車レースで、日本人選手に与えられた「最下位賞」がまったく不名誉ではない理由

提供:NIPPO - Vini Fantini - Faizané

提供:NIPPO - Vini Fantini - Faizané

イタリアの各地で3週間に渡って行われた「ジロ・デ・イタリア2019」が6月2日に閉幕した。自転車レースとしては世界最大級のスポーツイベントということもあり、特にヨーロッパでの注目度は高く、現地では連日新聞やテレビを賑わせてくれた。

そんな自転車レースで、今回初出場ながら142人中142位で完走を果たした初山翔選手が、大会主催者より最下位賞を意味する「マリア・ネーラ(黒のジャージ)」を贈られた。最下位なのになぜ「賞」が贈られたのだろうか。今回はその裏に隠された、主催者側のあたたかな気遣いに注目したい。

活躍を讃えての「最下位賞」

「最下位」と聞くと、不名誉な記録だと思う人もいるかもしれない。そんな人に向けて、まずはこの「ジロ・デ・イタリア」というレースについて少しご紹介したい。

今回のジロ・デ・イタリア2019は、5月11日〜6月2日にわたって行われた。途中2回の休息日を挟むが、選手たちはおよそ3週間の間、毎日150〜200キロもの距離を自転車で走る。コースにはアルプスの麓やアペニン山脈などの山岳地帯も含まれるため、選手たちはペダルを漕ぐだけでも難しいような急坂を、レースをしながら駆け上がっていく。

その総走行距離はおよそ3,500キロ。補足しておくと、東京―大阪間を高速道路で走った場合の距離がおよそ500キロとなる。

つまり、ジロ・デ・イタリアを完走するのは、東京と大阪の間にアルプスの山をいくつかぽんぽんと置き、そこを自転車で3往復半するのと同じと考えると分かりやすいだろうか。

さらに付け加えておくと、日々走るコースにはタイムリミットが設定されていて、それを超えた選手は翌日以降のレースに出場できない。そのため、完走するためにはスピードも求められるのだ。

第3ステージでの初山選手の走り 提供:NIPPO - Vini Fantini - Faizané

第3ステージでの初山選手の走り 提供:NIPPO – Vini Fantini – Faizané

初山選手はそんな過酷なレースをただ走り切るだけでなく、途中で144キロにも渡る独走をきめたり(正確には「逃げ」と呼ばれる自転車レース特有の戦略的な動き)、同じチームの同僚をアシストしたりしながら完走を果たした。

特に途中の144キロに渡る単独での「逃げ」のインパクトは強く、翌日のスポーツ紙では写真付きで初山選手が大きく取り上げられ、さらに閉幕のセレモニーの場では優勝候補とされた世界のトッププロに次ぐほどの大きな歓声が上がった。

「逃げ」の活躍は現地の新聞にも大きく取り上げられた 写真提供:NIPPO - Vini Fantini - Faizané

「逃げ」の活躍は現地の新聞にも大きく取り上げられた 写真提供:NIPPO – Vini Fantini – Faizané

今回主催者から贈られた「マリア・ネーラ」は、そんな初山選手の活躍を讃えてのもの。決して冷やかしではなく、最下位での完走という「栄誉」に賞が贈られたのだ。

また、初山選手は142位の最下位でレースを終えたが、スタートリストに名前を連ねた選手は176人。つまり、34人の選手は途中リタイアやタイムアウトなどで完走に至らなかったことも付け加えておきたい。

かつては多くの選手によって争われた「マリア・ネーラ」

今回初山選手に贈られたマリア・ネーラ、実はジロ・デ・イタリアでは久しぶりの登場となる。

もともとは1946年に特別賞として登場したのが始まりで、1951年までの7年間と、1967年、2008年の合計9回しか採用されていない(2008年大会は「ヌメロ・ネーロ(黒いゼッケン)」という名前で登場)。

廃止されたのは、優勝することができない選手がマリア・ネーラを獲得しようとあらゆる手段を取り始め、スポーツ的に美しくない場面が目立ったことが理由にある。「あらゆる手段」の中には、レース中にレストランに入って時間稼ぎをしたり、農家の乾草の中に隠れて最後尾の選手をやり過ごしたりといった行為もあったという。

こうした背景もあり、マリア・ネーラはイタリアの自転車ファンの中ではどこか親しみをもって受け入れられている。廃止されたあとも最下位の選手を指すとして言葉だけは残ったし、ジャージのレプリカが作られ販売されることもある(本物が存在しないのに)。

そんなマリア・ネーラを非公式とはいえ特別に復活させたのだから、初山選手の活躍は相当なインパクトがあったと思われる。すでにSNSでは、マリア・ネーラ獲得を祝福する声がいくつも寄せられておりお祭りムードに。今後の初山選手の活躍にも、ぜひ期待していきたい。

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Text by 鈴木圭

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