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いちばん危ないのは何もない時…命を預かるJALの整備士に受け継がれる教えの意味

日本航空の航空整備士たち=羽田空港

日本航空の航空整備士たち=羽田空港

飛行機の点検や修理を担う航空整備士。

整備に万全を期す一方、絶対にミスできない重圧下で不測のトラブルに対応する集中力と技能が求められる職業だ。

金谷さん中村さん2

日ごろの仕事でやる気や技術の維持は多くの社会人にとって課題だが、ひときわ過酷な現場で、彼らはどのような心構えで仕事に臨むのか。

羽田空港で働く日本航空(JAL)の整備士、中村勝美さん(51)と金谷達朗さん(29)に伺った。

白い機体が美しく

羽田空港は24時間、ひっきりなしに飛行機が離発着する日本一忙しい空港だ。

JALの場合、整備士は一日を3交代で点検や補修といった業務に当たる。

飛行前の点検は、特に大きい機体を除いて1人で1時間以内に行うといい、責任は重大である。

格納庫で整備を受けるJAL機

格納庫で点検を受けるJAL機

この道29年、大ベテランの中村さん。

19歳で初めて飛行機に乗った時、白い機体の美しさに心を奪われた。

現在は社内の教官も兼任し、後進の育成に当たる。

7年目の金谷さんは、高校時代から「手に職を付けたい」と考えていたそうだ。

当初は電車の整備士を志望したが、友人の勧めで航空整備士の職を知り専門学校を受験した。

2人の専門学校はどちらも入社試験の学校推薦が成績順だったため、在学中は必死に勉強したという。

「毎日が試験」勉強量が頼り

航空整備士は入社後、より上位の国家、社内資格を取得して扱える機体や業務の範囲を拡大していく。

大型機全般に携わる一等整備士は筆記、口述、実技など複数の段階で試験があり、ストレートでも1年近くかかる難関。

第一段階の教則本ですら電話帳4冊ほどに匹敵し、金谷さんは「ライセンスを取るのが大変で、一つ取るのに2年近くかかることもある」と話す。

試験前は家庭でも1日5~6時間の勉強をするという。

勉強について語る金谷さん

勉強について語る金谷さん

中村さんも「知識をキープするのがとにかくきつい」と明かす。

「整備士は勉強から逃れられない。サボればその分自分に返ってきますから」と厳しさを語る。

飛行前は乗務員から機体に関する質問をしばしば受け、素早い回答が求められる。

「毎日が試験みたいですね(笑)。

大体のトラブルは事例集で対応できますが、それに当てはまらない時は自分の知識が頼りになる。

機体の改修を歴史の流れでつかんでおかないと、どこがおかしいのか見当がつかない。

それだけに直したときの達成感はすごいです」

「安心して搭乗してください」と語る金谷さん(左)と中村さん

金谷さん(右)と中村さん

トラブル対応は準備が7割

金谷さんが先輩から教わったトラブル時の心構えがある。

「仕事は準備が7割、実動2割、後処理1割です。

きょうはこういう機体だから、こういうトラブルがあるかもと想定して準備をする。

工具もメンタルも足りない部分があれば動揺してしまう。

準備を抜かりなくやっておくことで、イレギュラーに対峙する余裕が生まれます」

いちばんの危険は「何もない時」

勉強を重ね、トラブルにも即応する整備士たち。

しかし、「いちばん危ないのは何もない時」と中村さんは強調する。

「整備士は、ほど良い緊張感が大切です。何もない時こそミスが出やすい。

先輩から、そういう時は『足元を見ろ』と教わります。

液体が落ちていたら拭く、道具があったら片づける。次は周りを見て落ちている理由を探しなさい。

我々は掃除じゃなくて検査をしているんだ、と徹底的に叩き込まれました」

「足元を見ろ」と語る中村さん

「足元を見ろ」と語る中村さん

オフィスで働く人ならば、足元は机周りと言い換えられるだろうか。

自ら仕事を探しに行く姿勢が、結果として仕事上のミスを減らすことにつながっている。

「初点検機は地元行き」「窓の向こうに家族」

厳しい現場だが、やりがいも大きい。

金谷さんが印象的だったのは、ライセンスを取得して臨んだ今年4月の飛行前点検だ。

初めて責任者として点検記録に署名した。

「初めて署名をやった時が心に残っています。

お願いして地元の秋田行きの便をやらせてもらい、思い出深い一便になりました」

日本航空整備士

飛行機の前輪を点検する金谷さん(左)と中村さん

中村さんは点検した飛行機の出発時、機体へ手を振る瞬間にうれしさを覚える。

「最後に手を振ると、手を振り返してくれるお客さんがいるんです。意外とよく見えるんですよ。

窓の向こうに自分の家族が笑顔で乗っている、そういう気持ちで見送っています」

日本航空整備場外観

きょうも全国で数百機の航空機が乗客の命を預かる。

2人とも「自信を持ってリリース(送り出す)しています。安心して搭乗してください」と断言する。

空の安全を陰で支える整備場は、どんな職場にも通じる示唆に富んでいた。

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Text by 漆舘たくみ

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