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参加者「もうね、変態ですよ。変態」夜の寺に音響マニアが集う「手作りアンプの会」に潜入してきた

アンプを聞き分ける参加者たち

アンプを聞き分ける参加者たち

2016年12月29日、夕日が差す東京都世田谷区の閑静な住宅街。

年越しを控えた街で「初詣」の赤いのぼりを掲げた寺に、男性たちが20人以上も続々と集まってきた。

会場の妙法寺=2016年12月29日、東京都世田谷区

お寺大会の会場となる妙法寺=2016年12月29日、東京都世田谷区

親しげに会話を交わす彼らの手は、大事そうに機械を抱えている。

これが、この寺で20年余り続くディープすぎる趣味人の集い「お寺大会」の幕開けである。

ちなみに、この妙法寺は「回る大仏」として知られる「おおくら大佛」が鎮座するお寺だ。

おおくら大佛

おおくら大佛

いったい、何が始まるのか!?

箱の中は「手づくりアンプ」

彼らの正体は、アンプづくりを趣味とする「手作りアンプの会」のメンバーである。

1995年に、自作オーディオから音を出す喜びを伝えようと設立。

メンバーは音楽好きが高じて、オーディオ機材を自ら改良して音質を追求している。

手作り感あふれる日程表

手作り感あふれる日程表

現在は全国に支部を持ち、有名な深夜番組「タモリ倶楽部」への出演経験もあるとか。

設立当初から関東の会員が夏・冬の年2回、住職が会員のこの寺の大広間に集まり、毎回のテーマに沿った自作アンプを持ち寄って発表している。

「アンプ」とは、音源の再生機とスピーカー機器の間に取り付け、音声を増幅する装置。

音質を左右する重要な役割を持つオーディオの要であり、工夫の余地が大きい。

有名キャラクターを描いたアンプ

有名キャラクターを描いた手づくりアンプ

わざわざ「アンプ」の意味を調べたほど無知な筆者だが、ヘビメタ好きの友人から「分かんなくても、なんか楽しいよ」と誘いを受けてやって来た。

確かに、気の良さそうなおじさんたちが座敷でニコニコと準備していく様子は、地元の祭りの雰囲気を思い出す。

オラ、なんだかわくわくしてきたぞ!

着々と会場を準備していくメンバーたち

大広間で準備していくメンバーたち

テーマはイヤホン用アンプ

今回のテーマは「ディスクリートイヤホンアンプ」

ディスクリートって何だ?と思ってしまったが、いつもに比べ優しいお題らしい。

一つの音源機器から音楽1曲を出展されたアンプに配信し、各自のイヤホンで試聴。

それぞれが持ち点9点を良いと思ったアンプに振り分ける形式だ。

開会式で、審査委員長は「計算が面倒なので持ち点は少なくしました」とあいさつ。

年末にふさわしい潔さである。

試聴をする参加者たち

真剣な表情で試聴する参加者たち

参加者は長机に並んだ計13台のアンプに、次々と手持ちのイヤホンを接続して音色を聴き分けていく。

蚊取線香の空き缶やプラスチック製の青いティッシュ箱を再利用したもの、さらに木製の箱など個性豊かなアンプが並ぶ。

真剣な表情で聴き分けて……なんてばかりではなく、お酒の瓶も取り出しつつ和気あいあいと会が進む。

「これは三連結で…」「右が〇〇アンペアでさぁ」

筆者には意味の分からない専門用語が飛び交うが、みんな笑顔でアンプ談義に花を咲かせる。

おお!本当になんか楽しいぞ。

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実は大手企業の元技術者や大学教授など、立派な経歴を持つ方々だが、皆さんそんなことはおくびにも出さない。

肩書を離れ、大好きな趣味に没頭する姿は無邪気さすら放つ。

盛り上がるオークション

アンプを脇に寄せ、わいわいがやがやと夕食を食べ終えると、いよいよオークションである。

参加者が要らなくなった部品や工具を持ち寄って出品。ほとんどが100円からスタートだ。

大盛り上がりのオークション大会

オークションの様子

「そんなの要らないよ~」

「お、役立ちそうなのが来た!」

自由奔放に野次を飛ばしつつ、やっぱり楽しそうに部品を落札していく。

アンプ1台につき1個あればいいらしい部品の300個セットを格安で落札した60代男性は、「どうしよう、これ。生きているうちに使いきれねぇぞ」と大笑いしていた。

結果発表

「計算を簡単にした」厳正なる集計の結果、優勝したのはこちらの蚊取線香の缶を使ったアンプ。

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蚊取り線香の缶を再利用したアンプ

入賞者がそれぞれ座敷の前に出て、審査委員長から表彰状を受け取る。

副賞は、他の集まりでの無料券など。

アニメキャラクターが彩るカードの制作者は、アニメソング好きの60代男性である。

アニメキャラクターが輝く副賞

アニメキャラクターが輝く副賞

長老・宇多さんが語る

会の設立初期から参加する最高齢の宇多弘さん(80)が、始まりを振り返る。

当時(1995年)は、市販のアンプといえばプロ用かおもちゃみたいなやつに二極化していました。

あるオーディオ店で、サラリーマンが小遣いでつくれる良い物を追求しようって話になって。

素材が限られる中で昔のテレビや無線用の真空管を流用して、試作や市販品の改造をしてました。

やりにくい面も多かったけど、それが楽しかった。もうね、変態ですよ。変態。

「真空管」とは、かつてオーディオやコンピュータなど多くの電子機器に使われていた電子を増幅・制御する装置。

一般には小型で省エネな「半導体トランジスタ」に取って代わられたが、音色の特長や見た目の美しさからオーディオ機器では愛用者が多く、現在も生産されているという。

オーディオ用の真空管

オーディオ用の真空管(手前のガラス管4本)

背筋を伸ばし、年齢を感じさせない宇多さん。

戦後間もない中学生の頃に真空管ラジオの制作にはまり、電気通信大学に進んだ。

大学生の時(1950年代)なんか、家庭の娯楽がラジオしかない時代でしょ。

秋葉原の電気屋でバイト中に、勝手にラジオ修理を請け負って小銭を稼いでました(笑)

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自作機器について熱弁を振るう宇多さん(中央)

大学卒業後は、大手電機メーカーで真空管コンピュータや業務用コンピュータのOSの開発に携わる。日本のデジタル黎明期を知る時代の生き証人である。

オーディオ機器がデジタル化した現在には、ちょっとばかり危機感を抱く。

半導体になって回路自体がブラックボックス化して、決まった部品を実装するだけになっちゃった。

オーディオづくりは、失敗して課題を解決するのが面白いのに。

「つくる」の概念が変わってきているとは感じます。

若い人たちに受け継ぎたい

事務局を含め主要メンバーは、すでに60歳を超えた人がほとんどだ。

皆、「若い人にもっと来てほしい」と口をそろえる。

数少ない若者である会社員・隠岐直哉さん(27)は、高校時代にオーディオづくりに目覚めた。

大学1年だった時にネット掲示板で会の存在を知り、10年近く“入り浸っている”という。

平均年齢は高いですけど(笑)、皆さんフレンドリーで接しやすいです。

参加すると機械の組み方とか、その時代時代の回路を学べる。

若い人がもっと来たらいいなと思います。

アンプを聞き分ける参加者たち

アンプを聞き分ける参加者たち

今回、先輩の紹介で初めて参加したという都内の男子大学生(23)は、目を輝かせて自作アンプを巡る。

既製品の分解から始めたので、ゼロからの組み立てるにはまだまだです。

こういうイベントに積極的に参加して技術を盗みたいですね。

皆さん親切なので歳は気になりません。

先人たちの技術が若い世代に受け継がれる場でもあるのだ。

宇多さんが、会の性格を語る。

ジャズ好き、クラシック好き、ポップ好きとみんな音楽の趣味はばらばらです。

特定のメーカーにこだわろうなんてこともない。

それぐらい空気がゆるいからこそ、会が長続きしているのでしょう。

妙法寺

妙法寺

年末の夜長は、24時を越えても続く。

座敷のあちこちで車座になり、道楽の話で笑い合う。

何かとギスギスしがちな昨今、都会の片隅のお寺に充満するのん気さは「世の中、あんがい悪くないな」という気持ちにしてくれる。

次回は今夏に開催予定。テーマは「スイッチングB電源による真空管パワーアンプ」である。

このテーマの意味が分かる方はぜひ参加してみては。学生は参加無料だ!

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