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受刑者が描く“マンガの素材”が話題に!発案者「物事に取り組む姿勢を学んでほしい」

提供:漫画家本舗

提供:漫画家本舗

漫画用の背景素材(線画)を販売するWEBサイト「漫画家本舗」が話題になっています。

背景素材は、山口県美祢(みね)市の刑務所・美祢社会復帰促進センターの受刑者が刑務の一環として制作しています。

運営する同市出身の漫画家・苑場凌(そのば・りょう)さんこと、株式会社みね友善塾の渋谷巧代表に経緯を伺いました。

民間運営の刑務所が協力

同センターは、日本初の民間委託で運営する刑務所です。

初犯で再犯の可能性が低いと判断された受刑者が、他の刑務所に比べて行動の自由度が高い環境で、刑務や職業訓練を通して社会復帰を目指します。

提供:漫画家本舗

背景素材の一例「救急車」 提供:漫画家本舗

背景素材は、センター側が選んだ人材に、渋谷さんや現地のスタッフが描き方を指導。受刑者は写真を基にパソコンで線画を制作し、チェックを経て公開されます。

作品は現在約100点がアップされ、おおむね1枚324~540円で販売。

購入者本人による改変は自由で、何度でも使用できます。一部はレイヤー(多層)構造で、掲載作品に応じて電柱や樹木を消すといった調整が可能です。

漫画家にとっては、背景を描く時間の短縮やアシスタントの負担軽減につなげられるメリットがあります。

背景素材の一例「民家」 提供:漫画家本舗

背景素材の一例「民家」 提供:漫画家本舗

当初は集中力なく驚愕

サイト立ち上げのきっかけは2014年、渋谷さんの知人が指導していたパンフレット制作の刑務作業の見学です。

受刑者たちがフォトショップやイラストレーターといった制作ソフトを器用に使って簡単なイラストを描く姿に、背景も描けるのではないかという考えがよぎりました。

センター側に「漫画の背景、緻密な線画を描くことは更正につながるのでは」と相談したところ、「まずはやってみましょう」と意外とすんなり話が通ったといいます。

(作業する受刑者に)「トレースでいいからちょっと描いてみない?」と話をしたのですが、最初は「妙はおっさんが現れて無茶なことを言い出した」という表情でした。それでも彼らは描いてくれました。

そして、東京の私の元へ届いた絵は……驚愕するほど残念な絵でした。

▼依頼した当初に受刑者が描いた線画

依頼した当初に受刑者が描いた絵 提供:渋谷さん

提供:渋谷さん

絵からは、明らかに集中力の欠如が見て取れました。

雑な線で描いた、ごまかしとやっつけの絵でした。また描き上がっていないのに、出来上がりですと送ってきた絵もありました。

彼らに足らないものは、このように物事に対する基本的な姿勢ではないかと思い、単にマンガ背景を描いてみてもらおうから、更正作業にも使えるのではないかと私の意識が変わってきました。

最初の書籍で目を輝かせ

これを機に渋谷さんが直接、絵を指導するようになります。

東京在住の渋谷さんは、インターネットに接続できない受刑者に代わって現地の知人が連絡役となりWEB上でのフィードバックを繰り返しました。

やがて作業する受刑者たちの意識が変わり、質問される場面が増えたといいます。画力も向上し、自身の作品の背景として実際に使うことにしました。

▼受刑者とのやり取りが入った絵

渋谷さんが赤ペンが入った指導中の絵 提供:渋谷さん

提供:渋谷さん

書籍が出来上がり、その本を見た彼らの目の輝きは、当初会ったときにはなかったものだと私は感じました。

この作業を継続していく価値があるのではないかと考え、漫画家本舗開設へとつながっています。

漫画家から依頼、モチベーション高めて

背景素材を使用した漫画作品は、基本的に作成者に報告しています。

販売された漫画本を持ち込んでみせますし、誰々先生が作品に使ってくれたよなどと報告します。

ただし、WEBでダウンロードされた絵については、どこに載るのか分かりませんしダウンロードされない人もいるのであまり伝えてはいません。

出版社などの協力を得て、渋谷さんはこれからも事業を続けたいと意気込みます。

現在は連載を持つ漫画家による定期的な背景制作や、出版社の編集部からの問い合わせも来ているそうです。

この更正作業を継続するためには、お金も必要ですが「あの作品に使われた!」とか「あの先生のキャラの後ろの背景は自分が描いた」などモチベーションを高めるために、もっともっと知ってもらい、使ってもらいたいと思います。

提供:漫画家本舗

救急車内の背景素材 提供:漫画家本舗

物事に取り組む姿勢を学んで

今回、漫画家本舗がインターネット上で話題になる中で、「アシスタントにするために指導しているのではないか」といった誤解も生じているそうです。

渋谷さんは、物事の取り組み方を学ぶひとつの方策として、地道で根気の要る素材制作が適していると強調します。

私はセンターにおいて、受刑者を漫画家、アシスタントにするために指導しているのではありません。

彼らの更正作業に、漫画の背景は生かせるのではないかという思いで行っています。

成果物は、ただ置いておくのももったいない出来ですし、この活動を継続していく資金も必要です。多くの人に知っていただくために漫画家本舗のサイトを作り、販売を始めました。

作業の過程で漫画・イラストに目覚め、出所後この道に進みたいという受刑者が現れたら全力で応援しますし、それに向けて指導内容も変えながら教えていきたいと思っています。

ですが、基本は「物事に対しての取り組み、精神的なもの」を学んでほしくて行っています。

※漫画の背景素材は、渋谷さんの許可を得て掲載しています。

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