1989年1月8日に始まった平成の時代は、2018年で30年目を迎えます。
この30年で私たちの身の回りではいったい何が変わり、何が変わっていないのか。「平成30年目の目!」と題して、各分野のプロに振り返ってもらいます。
【第1回:平成30年で“ケータイ”が退化した面とは?auに聞く携帯電話史】
第2回は「女性の化粧」に目を向けて、資生堂でトップヘアメイクアップアーティストとして長年活躍する鈴木節子さんにお話を伺いました。

資生堂の鈴木節子さん
バブルと平成不況の対比はっきり
平成元年(1989年)の日本は、バブル経済の絶頂期。赤やピンクの濃いリップと太い眉、目もとにほんのりとしたローズ系の色を差したメークが流行し、華やかな雰囲気が街を包んでいました。
しかし、好景気は1990年を境に急激に失速。翌91年3月ごろには「失われた20年」と呼ばれる長い不況の時代に突入します。世相は、女性たちの化粧にも如実に現れたといいます。
バブル期と平成不況の対比は、はっきりしています。平成不況が始まると、カジュアルなファストファッションが人気になり、あまり色を感じさせないヌーディーなメークが流行りました。
90年代中頃に美容ブームが起こると、細眉、小顔、茶髪がブームになります。茶髪が定着したものもこの頃で、へアカラー率が9割を超えました。

1989~1992年バブル期のごろの化粧 提供:資生堂

1990年代後半~2000年代初期の細眉、小顔、茶髪が特長の化粧 提供:資生堂
男性受けと女性受け
2000(平成12)年以降は、一時的なITバブルを経てサブプライムローン問題やリーマンショックにより不況と格差が深刻化します。
「細眉・小顔・茶髪」の装いは、どちらかというとクールで同性からカッコいいと女性受けするものでした。
2000年代の不況は女性たちの安定志向につながり、「婚活」「勝ち組・負け組」の概念が生まれました。男性受けする女性らしい「モテるメーク」が流行り、ヘアアイロンで髪を巻き、目を大きく見せる“盛り”の時代です。
女性の化粧は、男性の目線をより意識するようになります。女性受けから男性受けの装いに変化した時代でした。

2000年中~後期の「モテ」を意識した化粧 提供:資生堂
転機となったのは、2011(平成23)年3月の東日本大震災です。
震災を転機に、ぐっとナチュラルに、それまでとまるっきり違う顔になりました。「ゆるふわ」や「抜け感」をキーワードにぐっと可愛らしく見えるメークになったのです。
物質的な価値観の変化からか、身の丈に合った「癒し」を求める傾向になりました。

2011年3.11以降の「ゆるふわ」感のある化粧 提供:資生堂
2012(平成24)年秋頃になると、ゆるやかな景気回復を反映するように「赤リップ」など明るさのあるメークが広がり始めます。2010年代中期は「バブルリバイバル」とも呼ばれる、鮮やかなピンクなどのメークが女性たちの顔を彩っています。
バブル崩壊後にしばらくヌーディーだったメークが、明るい色が戻り、女性らしく装いたいという気分が表れ始めます。
バブルのころの化粧を知らない世代には、バブル期のメークが新鮮に映ったのではないでしょうか。

明るさを取り戻した2010年代中期の化粧 提供:資生堂
なぜ化粧に世相が反映されるのか
メークは確実に時代を映してきました。そもそも、なぜ女性の化粧には世相が表れるのでしょうか。
よく聞かれるのですが、それは本人たちが意識するしないに関わらず、反映されてしまうものだと思っています。世の中に漂っている空気を、敏感に感じ取っている。
明るい化粧の女性が増えれば街が華やかになるように、装いと時代の空気はお互いに作用しあっていて、どちらが先とは言えないのです。朝起きて「今日はデート!」なのか「ちょっと買い物に行くだけ」なのかでメークは変わりますからね。

化粧の歴史を語る資生堂の鈴木節子さん
この30年で最大の変化は、装いについて「地域差と時差がなくなったこと」と「消費マインドの多様化」と分析します。
小さい頃からPC等が常に身近にあり、整ったネット環境で情報を集める世代が化粧市場の中心になったことが大きいと考えています。
海外のファッションショーも、どこにいてもすぐに確認できます。商品自体も専門店やデパートに限らず、ネットやドラッグストアでも買えるようになりました。
日本の多くの人は基本的に肌色が同じですから、流行を意識しやすいと考えています。最近だと韓国風が流行りましたが、今は有名セレブに限らず一般の人が自分のメークをSNSや動画で発信していて、誰でも流行の発信源になり得る時代です。
一方で、メークの流行は一括りにしにくくなったと指摘します。
地域差や情報の差がなくなって、女性たちは自分がどうしたいかに正直になってきています。どんなファッションを楽しんでもいい時代です。
流行を追いかけながらも、枠にくくられたくないというマインドがある。感性が多様化して、何が流行るか予測するのが、やや難しく複雑になってきます。気分によって、今日はエレガントなOL風に、今日はカジュアルでスポーティーにと一人でいくつものパターンを楽しむようになりました。

化粧への「マインドが多様化している」と話す資生堂の鈴木節子さん
化粧は女性を後押しする
見た目には大きく変化を続ける女性の化粧ですが、いつの時代も変わらない部分もあります。
「お化粧が女性の気持ちを後押しする」効果は、常に変わらないと思います。震災などでどんなに世の中が自粛ムードになっても、皆がお化粧をまったくしないという時は長く続きませんでした。
戦時中ですが、金属が足りない時代に、軍需工場で働く女性に木製ケースの口紅が作られました。どんな時代でも化粧品は女性の心の支えになったのではないでしょうか。
この写真を撮影した時に実感したのは、同じ1人のモデルさんが化粧によって仕草までそれっぽく変わってしまうこと。 化粧の力とは、その人の年齢や性格まで違って見せ、仕草を変えるほど女性の気分を変えてしまうのです。
新たな時代へと向かう平成30年。女性たちのメークは、何を映し出すのでしょうか。

提供:資生堂
第3回は「若者のファッション」に目を向け、平成のファッション界をリードする「BEAMS」の窪浩志さんに平成30年を振り返ってもらいます。