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300冊の“規制しない本音”。個人の日記を集めた「手帳類図書室」の恋文を読む

自身の恋愛をつづった男子学生の日記/手帳類図書室

自身の恋愛をつづった男子学生の日記/手帳類図書室

「超スーパーウルトラムチャクチャ名残りおしい俺は…」

卒業式も終わった春休み。浪人が決まった男子高校生は、遠くの大学に行く同級生の“元カノ”と最後のデートに出かけ、別れ際の気持ちを日記にこう綴った。

彼は結局、自宅の最寄り駅を過ぎ、彼女の家の前までだらだらとついていく。踏ん切りがつかない18歳の純情が、飾らない言葉で記されている。

こんな、本来は他人に見せるつもりがなかった手帳や日記を閲覧できる場所が注目を集めている。

ピカレスク外観

ピカレスク外観

個人の手帳を読めるギャラリー

東京都渋谷区代々木の閑静な住宅街の一角にあるアートギャラリー「Picaresque(ピカレスク)」で、個人の日記や手帳が読める展示企画「手帳類図書室」が開かれている。

資料は、手帳収集家の志良堂(しらどう)正史さんが2014年から提供を募り、現在は1200冊以上のコレクションのうち、約300冊を読むことができる。

IRORIOでは16年6月、都内の別の場所で展示していた時に、志良堂さんに収集のきっかけや意義について取材した。

◆【記事】思考の原型がみえる…「手帳類収集家」が使用済み手帳を集める理由

手帳類図書室の閲覧スペース

手帳類図書室の閲覧スペース

当時は16年冬ごろに展示を終える予定だったが、ピカレスクが現在地に移転したのにあわせ、ひとまず18年4月まで展示期間を延長している。

今回はバレンタインデーにあわせ、胸がきゅんとなる2人の高校生の恋愛日記をご紹介したい。

男子学生の恋愛日記

冒頭の日記は、関東地方の男性が1992(平成4)年から高校、大学と約8年にわたって書き溜めたうちの一節だ。

罫線からぶれずにページいっぱいに手書きした文字からは、その几帳面な性格が伝わってくる。

1年生から片思いしていた女子に告白してフラれたこと、その後初めて彼女ができたこと、そして3カ月後に彼女の気持ちを別の男性に奪われたこと。それでも「彼女以上の女性はいないというか発見できない」と、思い出の日々を振り返る。

▼男子学生の日記の前書き(一部モザイクを掛けています)

自身の恋愛をつづった男子学生の日記

手帳類図書室

計5冊に及ぶ彼の恋愛日記の中には、表紙に5円玉を貼り付けたものも。タイトル欄には筆記体で「I want to get (女性名)」とある。すなわち「ご縁がありますように」という願掛けである。

健気すぎる彼に、日記ばかり熱心に書いているから浪人したのではと勘繰るのは野暮だろう。

自身の恋愛をつづった男子学生の日記/手帳類図書室

自身の恋愛をつづった男子学生の日記/手帳類図書室

先生に片思いする女子高生

学校の先生に3年間、片思いをしていた女子高校生の日記もある。

東北地方のある進学校の女性は2000(平成12)年から、頼れる「先生」への恋心を書き留めた。

先生の授業が多い日は「今日は○○ちゃんデーなのだ!」と、日記の文字が躍る。

家に帰っても「今夜の笑ってコラえては○○先生の出身地だ!」と、テレビ番組に関連ワードが出るだけで、彼女のテンションは急上昇だ。

文化祭の準備で話したこと、進路指導室での他の先生たちとのやり取り…計7冊のノートに目一杯に書き込んだ「先生」との交流の記録が、学校生活が楽しくて楽しくて仕方がなかったことを物語る。

先生への恋心をしたためたノートの束

先生への恋心をしたためたノートの束/手帳類図書室

良い意味で「重たい」文章と向き合ってほしい

前述の2人は現在、それぞれ幸せな家庭を築いているという。若き日の真剣な恋は、きっと運命の人に出会った時に糧になったことだろう。

展示するピカレスクの松岡詩美代表は、個人の手帳に人々が興味を持つ理由を次のように語る。

誰にも見せるつもりがなかった言葉たちだからでしょうか。

文章は読む人の目線を意識した時点で、校正したり修飾したりしてしまって、スタート地点が変わってしまいます。表に出したら、下手をしたら炎上しかねないような「自主規制しない本音」が共感を得るのだと思います。

メモ帳やノートに手書きというのもポイントです。文書データと違い、(手書きの文書は)書くのも捨てるのもエネルギーが要るので、良い意味で「重たい」のだと思います。

手帳を収めた棚/手帳類図書室

来場者にはこう呼び掛ける。

手帳類図書室には友達と2人で読む方も、1人で集中して読む方もいらっしゃいます。数冊を斜め読みするよりも、どうか1冊とじっくり向き合って、行間ににじむ思いを感じ取ってほしいです。

「手帳類図書室」には恋の日記だけではなく、闘病記や小学生の夢日記、風俗業で働いていた女性のメモ帳なども収蔵する。

日記を公開する際には提供者に書面で同意を得るほか、個人情報など不都合な箇所は塗りつぶすよう求めている。閲覧者は資料について撮影しないこと、決して記載内容以上に詮索しないことがルールだ。

詳しくは、公式サイトを確認してほしい。

手帳類図書室に足を運んだら、自分の昔の手帳や日記を読み返しても面白いかもしれない。どんなことを自分が考えて生活してきたか、ありありと思い出せるはずだ。

ピカレスク

手帳類図書室があるピカレスク入口

 Picaresque(ピカレスク)手帳類図書室
【所在地】東京都渋谷区代々木4丁目54-7 
【アクセス】小田急線・参宮橋駅から徒歩3分
【入館料】1時間500円(延長同じ)
【営業時間】11:00~18:00
【営業日】ギャラリーに準拠(土日は基本営業、その他の営業日はピカレスクTwitterで確認)

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Text by 漆舘卓海

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