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「あと何回実家に帰れるか」26歳で大手企業を辞して“京扇子”の家業を継いだ若女将

提供:大西里枝さん

提供:大西里枝さん

能や歌舞伎といった伝統芸能、あるいは七五三や婚礼といったハレの場面には華やかな「京扇子」が欠かせない。

しかし、京扇子をつくる職人は減り続けているという。

そんな京扇子を後世に残そうと奮闘しているのが、京扇子の製造から販売を手掛ける京都市の大西常(おおにしつね)商店の4代目若女将・大西里枝さん(28)だ。安定した大手通信会社を辞し、2016年8月に家業を継いだ。

「細く長く継続が大事」と語る大西さんが目指す先とは。

大西里枝さん 提供:大西里枝さん

大西さん 提供:大西里枝さん

“扇子屋”の背中を見て育ち

大西常商店は昭和初期に創業。以来、日用やご祝儀用などさまざまな扇子をつくり続けてきた。

1939(昭和14)年に現在地への移転後は、うなぎの寝床と呼ばれる奥に長い築150年の「京町家」で商いを営む。現在は大西さんの父・久雄さんが店を率いる。

大西常商店の正面 提供:大西里枝さん

大西常商店(京都市下京区)の正面 提供:大西里枝さん

大西さん自身は、大学卒業後に大手通信会社で回線サービスなどの営業企画を担当。形がないサービスの売り方を考える中で、社会人の次のステージとして「モノ」を売る経験を積みたいという憧れがあった。

私は扇子屋である父の姿を見て育ちました。自分の大切な人たちが商ってきた大切な商品に愛着と魅力を感じていました。

結婚と出産を経て、里帰りをしている時に「自分は扇子で商売したお金でご飯を食べてきたんだな」と思い、自分の子供も同じように育てたいと考えました。

前職は仕事のやりがいもありましたし、とてもよい職場環境でした。それでも、自分があと何回実家に帰れるだろうと考えた時に、それなら一緒に仕事をしたいと思いました。

提供:大西里枝さん

提供:大西里枝さん

里枝さんの決断に両親は驚いた。職人の高齢化などで先細りつつある産業を継がせるつもりはなかったそうだ。旦那さんも「厳しい商売だろうけど、何かに向かっている姿は応援したい」と背中を押してくれた。

実際に半年ほど家業をやって、両親が継がせようと考えなかった理由がなんとなく分かりましたけどね(笑)

京扇子をロジカルにブランディング

現在でも、前職の経験がしっかり生きている。

前職では、ロジカルな考え方が身についたと思います。私は職人ではありませんし、どちらかというと全体を統括していく立場ですから、よりロジカルな思考と柔軟な発想をうまく併せ持たねばならないと思っています。

決して奇をてらうことなく、軸をぶらすことなく、革新を進めていくという姿勢こそがブランディングの支柱になると信じて、地道に進めていければいいと思っています。

大西常商店の町屋の室内 提供:大西里枝さん

大西常商店の町家の室内 提供:大西里枝さん

店舗の京町家では、伝統芸能の公演や文化教室などの場所として貸し出しも行う。単なる店舗を超えて、交流の場としての役割も期待する。

京都の商売は、人と人との信頼関係で成り立っています。実際に、この町家は150年前から、浄瑠璃のお稽古場や商売人の社交場として使われていました。

インターネットもない時代です。この場所で得た情報を基に、また新たな商売がはじまるということもあったそうです。

時代は変わっても、人とひとの関係は変わりません。この町家が、そのような交流のハブになればいいと考えて様々なお稽古の教室に使っていただいています。

経営者として100年後の未来に

企業理念に掲げるのは、扇子を通して100年後の未来に技術と文化を残していくことだ。

扇子の芯となる「扇骨(せんこつ)」には、良質な竹が必須。良い竹材を安定して確保するためにも、需要を生み続けることが大切と意気込む。

大西常商店の店内 提供:大西里枝さん

大西常商店の店内 提供:大西里枝さん

5月には、扇骨を使ったルームフレグランス商品「かざ」シリーズを発売予定だ。

「かざ」は京都弁で香りの意味で、香料が骨伝いに、室内に香りを届ける。

通常の京扇子は高い耐久性から、1本あたり優に4年ほど持つという。対して「かざ」の扇骨はおよそ3~4カ月が交換の目安で、伝統に乗っ取りつつも、竹細工の需要のサイクルを早めるアイデアだ。

ルームフグランス「かざ」/出典元:大西常商店サイト

ルームフグランス「かざ」/出典元:大西常商店サイト

材料を確保し、扇子の文化を残していく「継続の戦略」は5~10年単位では難しいです。50年、100年後を見据えて、仕事をしていかなければなりません。細く長く継続することが大事です。

4代目の眼差しは、ずっと先を見つめている。

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Text by 漆舘卓海

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